【短編】コラプス 第三章
自動歩行機能をOFFにして外に出るのは久しぶりだ。
友人と食事にいくときも、コンビニにいくときも、常に何かしらのメモリをスロットに挿して出かけている。
お気に入りのアーティストのライブ空間にいたり、ドラマを見たりしていたら、あとは勝手に目的の場所に着いてくれている。
木々の葉がざわざわと風に吹かれてたてる音、革靴の底がコツコツと石畳みを蹴る音、雑踏のなかの人々の話し声、そんなものをリアルで感じる機会はほぼない。
むしろ、リアルの環境に生身の感覚で触れることは非現実的でトリップ感がある。
何よりも道ですれ違う人間たちの異様なふるまい ー 眼球をぐりぐりと回転させ、ブツブツと何かを呟き、ときには手をピクピクと動かしながら歩いている ー がそれがまたコンピュータのバグのようで、非現実間を助長していた。
人によっては生身の感覚で現実世界を味合うと心身を壊すことがあるらしく、現代病の一つとして扱われている。
ー 最高の世界だろ。
ともあれ、オレは目的の場所にで向かう。
どんな状態の何者であるかを気取られぬよう、幾分にも加工された情報ではなく生身に感じ取る情報を得られるよう。