浜辺暮らし

束の間の逃避行

【短編】コラプス 第15章

抜き出されてようとするデータを出来るだけ引き留めようとデータベースを守りに入る。

マイナンバー、口座番号、暗証番号、生体情報、下界と繋がった紐を切るように必要なコードを切っていく。

防衛策を打ちながら、敵の攻撃が薄いことに気づく。それもそのはず、敵の関心は全く意外な情報に向けられていたからだ。

ここ数日のHMM/Health Management Memoryのログ情報に絞られていた。しかも、バス、位置情報、行き先、といった個人のセキュリティとは直接的に関係のない検索ワードでデータが抽出されていく。

オレは敵の関心が意外なところに向けられていることにも驚かされたが、そもそも、自分がHMMに設定した自動運動のルーチンからは得られないであろうログが並び抽出されることに驚かされた。このとき、始めて、ここ数日の自分が現実世界でとってきた奇妙な行動に気づくのである。

データが抜き出されるまでの短期間にオレは無意識下に溜められていたログから動画を構築し、高速で再生する。

 

ー 知らない街角を歩き物資を調達する自分の姿、林の中に潜み蝸牛のようにニョキッっとした双眼鏡でバス停を監視する自分の姿、バス下に発信機を仕掛ける自分の姿、あぁオレは操られていたのか

 

データの抜き取られが終わる。オレは脊髄反射的に抜き取られた1件のデータを掴み取る。

 

眼前にはあの女。

 

ー それで、貴方はどうするの?

 

そう言い残して、女はフロートからログアウトしていった。