浜辺暮らし

束の間の逃避行

【短編】コラプス 第16章

深い森の中で白馬が一匹、死に絶えようとしている ー その馬、血を吐きながら、両方の前脚で空を掻いている。血は当たりに撒き散らされ、木々の新緑を天蓋に、その下で朱色の円形の舞台が形成されていた。 否、その舞台よく目を凝らすと、血のみではない。ぶつ切りにした大腸のような虫共が蠢いている。 近づいて詳しく見てみると、虫共は馬の後脚から体内を侵し、グニグニと馬の美しい白髪の表皮のもとで、動いている。 この馬も苦しそうかと思いきや、どこか愉悦に浸る目をしている。 快楽の元で死んでゆくのか、そうこの馬の死に様を見極めたその瞬間、オレは白馬に丸呑みにされた。 あとはもう一瞬だった。オレは馬の体内の肉に包まれ…

 

フロートであの女と別れて以来、オレが目を覚ましたのはそのときだった。

目を覚ますと、独特の匂いに気づかされた。葉と土といった森の匂いの中に金属系の匂いがブレンドされた感じ。さらには、体中を覆う筋肉痛や擦り傷切り傷の痛み。

まるで自分の部屋も自分自身も既に己のものではなくなってしまったかのようだった。

さらには、部屋に広がる金属や動物の肉と骨 ー

 

あまりの異常さに頭が痛くなりそうになりながらも、フロートで女と別れ後の記憶を思い出しきれず、ある直感の下、平然のフリをして母親の手作りの朝飯を食らい、家を出て、今ここにいる。林のなかで、過去の記憶を再生して自分の記憶を呼び戻し、直感の証左を得ようとしている。