浜辺暮らし

束の間の逃避行

【短編】コラプス 第一章

ヂヂヂヂッ ー

脳に響く不快な目覚まし音でオレは目を覚ました。

部屋のなかには天使でも降臨するのかというほどの朝日の優しい光 が差し込み、 その光のなかに様々な淡い色の光の玉がそこ彼処に漂っていた。

新しい世界が始まったと錯覚するほどの美しい一コマのなかでオレ は横たわっていた。

 

DIM(Dangerous Implant Memory)の残響だな ー そう思いオレは耳の裏のスロットからメモリスティックを抜き取り 、代わりにBIM(Bleaching Implant Memory)を挿し込む。DIMの痕跡を綺麗に消すのだ。

 

なかなかの夢だったな ー DIMディーラーにインターブレインVPMでメッセージを送る。 もちろんこの痕跡も削除される。

 

さて、 と立ち上がりブスブスと埃を吐く畳を歩き窓際の椅子に腰掛け、 紙巻きタバコに火をつけ一息、ふぅっと煙を吐き出す。

窓を開け、窓を外に逃すと、庭にいる飼い犬のコロが顔を見せる。

オレが箱から庭に撒き散らすようにドッグフードを提供すると、 コロの奴、 片付けていない自分の糞と雑草と一緒くたにガツガツと食らいつく 。

 

この姿が愛おしいんだ、 馬鹿で哀れでこのまま死すら意識することなくいつか死ぬ、 家畜の誕生から幾星霜も繰り返されてきたルーチンを再現して見せ てくれている、 そう思わせてくれるだけでコロの存在意義をオレは認めていた。

 

そうしている内にBIMが作業を終えたため、 DIMと共に庭に投げ捨てる。

 

あとはコロが処理してくれる ー

 

オレは母親が用意した朝飯の匂いに誘われ階下に向かった。

【短編】コラプス 序章

深い森の中で白馬が一匹、死に絶えようとしている ー


その馬、血を吐きながら、両方の前脚で空を掻いている。血は当たりに撒き散らされ、木々の新緑を天蓋に、その下で朱色の円形の舞台が形成されていた。

否、その舞台よく目を凝らすと、血のみではない。ぶつ切りにした大腸のような虫共が蠢いている。

近づいて詳しく見てみると、虫共は馬の後脚から体内を侵し、グニグニと馬の美しい白髪の表皮のもとで、動いている。

この馬も苦しそうかと思いきや、どこか愉悦に浸る目をしている。

快楽の元で死んでゆくのか、そうこの馬の死に様を見極めたその瞬間、オレは白馬に丸呑みにされた。

 

あとはもう一瞬だった。オレは馬の体内の肉に包まれ、押し出されるように深い深いところに落ちていった。


落ちた先には生ぬるさと何も見えないオレだけがあった ー


ヂヂヂ ー オレの今回のトリップはそこで終わった。