浜辺暮らし

束の間の逃避行

【短編】コラプス 第八章

判断力を放棄したオレはあの女に誘われるがまま、バーに併設された個室に連れられていった。
妖精が馬を森の水辺に優しく曳くように優しくも蠱惑的に、深い苔を踏みしめぬよう注意深くも潔く。

その光景は他者から見れば、単なる家畜。

オレはなされるがまま服を脱がされてソファに身を沈めている。

目の前では少し離れた距離をとって、あの女が服を脱いでいる。

女が裸になるとさっきまでは生き物の白い肌だったものが、ガラス質のようなものに変わり、
体を揺らすたび、腕を振るたびに、鮮やかな色のエフェクトが薄く滑らかにその上を滑っていった。

 

近づいてくる。1歩、1歩近づくたびに、光の揺らぎ、無数の香り、妖しい挙動、それらが情報の波
となって流れ込んでくる。

 

もはや抗えない ー 

抗う必要もない ー

 

オレの自我が空白に落ちたその瞬間、女が何か囁いたが、もはや聞き取る余裕はなかった。

 

その日、フロートでのオレの記憶はそこで途切れた。