浜辺暮らし

束の間の逃避行

【短編】コラプス 第6章

天井では人面太陽と人面月が食える星の数を競走し、地平線の先では天使と悪魔が雌雄混合でまぐわりあう、天空からも地平からもは聞こえるは凶器に満ちた笑い声。街を覗けば、淫乱下卑。着飾れどたかが放蕩者の群れ。酒に体液、薬に排気ガス、芳しきこの余の夕暮れ。

そんな場所が違法サーバの闇に浮かぶ、フロートと呼ばれる非合法地帯だった。

オレは一週間前にあの女にフロートで出会った。

 

その日、DIMディーラーの紹介でフロートを訪れたオレはトリップコード吸引前の余興として、ノーマルなバーカウンターでグラスを傾けていた。グラスのなかを転げ回る丸氷には狂った太陽と月が映り込み、どうしよもない世界のどうしようもない酒をより空しいものに仕立て上げていた。

 

一緒にどう?

突然、演出されたかのように、グラス片手に現れたその女はアバターにも関わらず、全くの人間の姿だった。黒い長髪、長身、白い肌 ー 唯一の遊び心といえば、その狐目の瞳が虹色のグラデーションで妖しくも主張強く光っていたことのみだった。